審美性と機能性に最大限配慮した
高坂デンタルオフィスの歯科治療例を紹介します。
50代男性の患者さんです。左下臼歯の欠損修復と上顎前歯の審美障害の改善を主訴に来院されました。治療を開始した時の様子です。 (写真1~5)
上の前歯には古い古いクラウンが装着されています。保険診療なので多くは望めませんが、いかにも人工物と思われる修復物に審美的な不満を抱えていらした初診時です。歯肉も退縮して変色した歯根が露出していることで、見た目の違和感が余計に強調されています。
左下臼歯の欠損により、効率よく咀嚼できないことも大きなお悩みです。機能と審美、両面の改善を強く求めた患者さんでした。
過去の修復物が軒並み劣化している状況でもあったため、全顎的な治療計画を立案いたしました。左側の臼歯が噛み合わせが失われていたにもかかわらず顎関節に問題がなかったことが幸いです。
見た目上の希望を叶えることが審美治療です。仮歯をいくつも作りながらそれを調整し、最終的な形や色調を煮詰めていきます。患者さんに確認をとりながらステップバイステップ作業を進めます。
古い修復物を外した直後
マージンが歯肉の縁下になる様に土台を丁寧に削り直した
もともとの古い歯をコピーして作った仮歯
より自然な雰囲気になる様に作り直して修正を加えた仮歯
※あらゆる角度から形をチェックします。
仮歯の形に不満がないことを確認してから、型採りのステップへ移行します。
精密印象のためには丁寧な形成と歯肉圧排は不可欠です(形成・印象について)。写真では前歯4本のうち2本にしか糸を巻いていません。その理由は、隣同士の歯に同時に圧排糸を挿入すると歯肉が押されすぎて、過剰なダメージを与えてしまう可能性があるからです。複数歯の印象を採るときは圧排糸は飛び石に挿入するので、最低2回の型採りが必要になります。
精密印象のためとはいえ、糸の挿入による歯肉のダメージを最小限にするためには仕方のない工程です。
(写真10-1、2)
クラウンセット直前の歯肉の様子です。(写真11)
コントラストを少し強調させた写真を見てみると、セラミックスが何層にも重ね焼されていることがわかります。天然歯独自の色調と奥行き感が模倣されています。技工士さんの手間と努力とセンスの結晶です。患者さんもとても満足してくださいました。 (写真12)
人工物が周囲歯肉の炎症の原因となってしまったら、セラミックスがどんなに綺麗でも修復治療としては失敗です。歯肉をいじめるような修復物は生体の中では異物扱いです。このケースの1年後の記録をご覧ください。炎症がまったく生じていないこだけでなく、歯間の歯肉が成長して隙間がなくなっていることがお分かりになるでしょうか。セット直後の状態と比べるとはっきりわかるでしょう。 (写真13-1、写真12)
生きた細胞である歯肉組織が人工物であるセラミックスクラウンを受け入れた証です。(写真13-2、3)
人の目は歯そのものに行きがちですが、実は知らぬ間に歯肉の状態もインプットされています。「歯は綺麗に見えるけど何か違和感がある…」と感じる時があれば、それはもしかしたら歯肉のコンディションを無意識に評価しているのかもしれません。健康な歯肉との調和があって初めて歯の美しさが際立つのです。
この方は他にも修復が必要な部位がいくつもありました。特に左下臼歯の欠損によって左側では決定的に咀嚼ができず、食事は常に右側に頼っています。負担が過剰になることで、今後ダメージが大きくなりやすい状況であることも懸念します。
後方に橋渡しできる歯がありませんのでそもそもブリッジ治療はできません。部分入れ歯かインプラントのどちらかを選択していただくことになりましたが、食事のしやすさと顎位を安定させることを考えたらインプラント治療が最も有利です。
患者さんは50代という比較的に若い年齢で、活発に人生を送られている真っ只中ということもありほとんど迷わずにインプラントをお選びになりました。 (写真15)
上顎前歯以外にも修復が必要な歯がありました。審美的な要求が高い部位はセラミックス治療をお勧めします。
噛み合わせの力が最もかかる大臼歯では、修復物の素材としてゴールドは選択肢から外せません。今回は左上の大臼歯2本をゴールドクラウンで修復いたしました。対合歯は天然歯ではなくショックアブソーバーのないインプラントです。咬合時の衝撃が大きくなりやすいのでセラミックスでは不安が大きかったのです。患者さんもそのことをご理解してくださりました。状況に応じたマテリアルの選択です。
歯科医師 高坂 昌太