歯科治療は素材の違いによって出来上がりの精度に大きな違いが生まれます。ゴールドは適合性が良いという特徴があります。
クラウンにゴールドをお勧めする理由は他にもあります。
それは適合の良さです。
こちらの写真の向かって左側は自費診療のゴールドクラウン。現在使われている歯科材料の中では最も精密に修復物を作れます。
保険のシルバークラウンと境目の適合状態を比べると、両者の違いは一目瞭然です。
技工師さんは模型上で修復物を一生懸命作りますが、素材の違いによって出来上がりの精度には大きな違いが生まれます。
むし歯の原因菌であるミュータンス菌のサイズは大体1μm(1/1000mm)にも満たない大きさです。ゴールドクラウンを被せた時の境目の隙間は、限界で30μm前後くらいで、歯科材料の中で最も成績がいいのですが、残念ながらバクテリアの大きさよりは隙間を狭くすることはできません。
最終的に隙間はセメントで埋まるので細菌が常に出たり入ったりはしませんが、隙間は広いほど段差が生まれくぼみができ、バクテリア当然むし歯の再発リスクは上がります。隙間を可能な限り少なくしようとする努力が我々歯科医師と技工師には求められます。
この写真はわかりやすい記録なのでご紹介します。こんなにも隙間・段差がある銀歯(銀パラジウム)のクラウンは、保険とはいえ高坂デンタルオフィスではセットはいたしません。患者さんにお詫びして、作り直しをさせていただいたケースです。患者さんには見えないので気づいていただけない部分ではありますが、できる限り問題が再発しないよう常に意識しています。
自費によるセラミッククラウンは、境目を適合させることがゴールドクラウンよりもずっと難しくて手間がかかります。私が依頼する歯科技工師さんは非常にハイレベルで境目を合わせてくれるので、私はいつも自信をもって患者さんに提供しています。
最後に私の失敗症例をご覧いただきます。過去、噛み合わせに対する配慮が今よりもずっと乏しい頃、患者さんにもご迷惑をおかすることもありました。下顎の一番奥にある大臼歯にセットしたばかりのセラミックスインレーが、3年で壊れてしまったのです。
この時はリスクの大きさを患者さんに納得いただいて金属でやりかえました。リスクの問題を考えると、セラミックスは金属よりも思いがけない事態をむかえる可能性は高いです。素材の特性と噛み合わせに対する配慮は軽んじてはなりません。
歯軋りの影響である摩耗面が早くも登場しています。特に※印は歯軋りの影響を最も強く受ける部分です。修復物をセットするときに噛み合わせをちょうどよく揃えても、夜間の歯軋りでは過剰な力に襲われれます。
では、あらかじめ低く調整しておけばセラミックスは壊れないんじゃないか?とお思いになる方もいるかもしれません。強く接触しなければ確かにセラミックスは壊れにくくなるでしょう。
しかし噛み合わせを低くしたせいで、もっと深刻な問題が浮上するかもしれないのです。噛み合わせが低すぎると、歯軋りした時の顎関節の負担が増して顎関節症を引き起こす可能性もあるのです(低位咬合のページ参照)。
適切な噛み合わせに調整しても、歯軋りによる修復物の破損のリスクは別問題で個人差も大きいです。この患者さんの場合はセラミックスでやりかえたとしたら、再び同じ問題を繰り返したかもしれません。長持ちさせるという意味では、ゴールドが何よりも安心できる素材です。