審美性と機能性に最大限配慮した
高坂デンタルオフィスの歯科治療例を紹介します。
定期検診で通ってくださる患者さんです。むし歯は少なくお口の中はいつも衛生的です。4〜5年前に他院で矯正治療の経験がある方でした。歯並びは綺麗になったとお喜びですが、もっと咀嚼しやすくならないものかお悩みでした。
以前がどのような歯並びであったはわかりませんが、現在は上下前歯の噛み合わせのオーバーラップが不足ぎみであることが気になります。この状態は奥歯の噛み合わせにさまざまな問題が生じやすく、注意が必要です。歯ぎしりをすると顎関節へのストレスが許容範囲を超えやすく、放置すると顎関節症の問題に悩み続けることにもなりかねません。この方の場合はすでに顎関節症が発症しているといってもいい様子でした。
青いマークが多いほど、歯ぎしりの力が増してゆく傾向があり、顎関節症は増悪してゆく傾向にあります。(歯ぎしりと顎関節症ページ参照)。この方も奥歯が擦れ合っている証拠の青い接触のマークが目立ちます(資料4〜7)。関節円板がすでにずれている可能性もあり、顎機能検査が必要な状況でした。
資料8は右奥歯でガムを噛んでいる時の様子です。この方の場合は特に右の顎関節の動きに不良の要素が目立ちました(資料8、赤枠)。
資料8
クローズアップした図で左右の顎関節の動きを上と側面から観察します(資料 9)。本来ならば直線的に動くはずのラインに幅があり(資料 9、赤矢印)、そしてスタート位置(資料 9、赤丸)から後方、上方、外側のエリアにまで顎関節が広く移動します。顎関節の靭帯の機能が衰えている証です。
左顎関節の動きも右ほどではないにしろ左右的な可動幅が広過ぎます(資料 10、赤矢印)。
関節の靭帯が正しく働かないと、関節は曲がってはならないところにまで曲がってしまい、本来の運動能力が激減します(資料 11)。顎関節の場合問題視するべき可動域は、「上、後、外側」の3方向です。そして動きの「幅の広さ」、これらが顎関節の動きの4大ネガティブ要素です。
この4つの要素が見られた場合、関節円板がずれやすくなり(資料 12)、顎関節症を引き起こしやすい状態といえます。顎関節症リスクを確かめるためには、目では見えない顎関節の動きを追いかけることがとても重要です。
根本的な問題の解決を図るためには前歯の噛み合わせを改善したいのですが、矯正の再治療が必要になります。費用と期間と手間の問題から現実的な解決策ではありませんでした。
だからといてってなにもしないでいても日頃の不快感は徐々に増してゆくでしょうし、時間が経つほど顎関節症は治りにくくなります。天然のエナメル質を削るという不利益が、顎関節症状の軽減と進行の抑制という利点が上回ると判断したので、患者さんは咬合調整を承諾くださいました。
余分な接触である青マークを削除し、左右の臼歯が同じ高さで、かつ点状に接触するように調整しなければなりませんが、前歯の状況の改善なしに臼歯だけの調整で理想の形に仕上げることは不可能でした。
それでも必要最低限の調整を済ませただけで、患者さんの日頃の感覚は大いに変化したようです。とにかく顎が楽になったとおっしゃってくださいました。それまではバイオリンの弦のように極限にまで緊張していた顎の下の筋肉が、触っても痛くなくなりました。
資料15で指先が触れている場所は、顎二腹筋という筋肉の一部で、顎関節に問題のある方はここに痛みが生じます。逆に痛みがなくなったということは、顎関節の負担が軽くなったことの証でもあります。筋肉のマッサージも有効ですが、かみ合わせを調整するだけで筋肉の辛い疲労感がなくなる場合もあるのです。
右の顎関節の調整前・後のデータを見比べます(資料 9、資料16)。
残念ながら外側に広がる可動域はほぼ縮小しませんでしたが、後方と上方へ可動域はだいぶ縮小しました(資料16、青枠)。完全ではないにしろ、靭帯の働きが大幅に改善したといえるでしょう。かみ合わせを整えるだけで、顎関節はダイナミックに反応します。
治療前、左顎関節は右ほど大きな問題はないにしても、外側への動きが余分でした(資料10、赤枠)。しかし調整後にはそれもなくなり(資料17、青枠)、より健全な動きに近づきました。
歯科医師 高坂 昌太