欠損歯の修復にインプラントが役立つことを、大臼歯の喪失を例に、ブリッジと比較しながら見ていきましょう。
親知らずを除いた28本の永久歯で前歯よりも臼歯の方が失われる可能性は高く、中でも一番奥にある第一、第二大臼歯の抜歯が統計的に最も多いです。理由は簡単に推察できます。
およそ6歳になった頃、一番初めに生えてくる臼歯が第一大臼歯です。歯ブラシもままならない子供にとって一番奥に生えてきた第一大臼歯は、細菌の餌食にどうしてもなりやすい。尊いエナメル質がむし歯と再治療で失われ、その後の人生で最もダメージが大きくなりやすい歯といえます。12歳前後で2番目の大臼歯、第二大臼歯が生えてきますが、この歯も細菌と咬合力の負の影響を受けやすい歯であることに違いはありません。
詰め物や被せ物、それを接着するセメントなど、すべての人工物にとってお口の中ほど劣悪な環境はありません。細菌の存在はもちろん、唾液という水分、咀嚼や歯ぎしりなどの破壊的な力に常にさらされているのです。文句のつけようのない治療だったとしても、修復物は時と共に劣化します。やがては再治療が必要な状況になるでしょう。
子供の頃、第一大臼歯の初めての治療が簡単な詰め物で済んだとしても、もしもその後も治療が繰り返されたらどうなるか…。
残念なポイントを補足すると、
必要であるからこそ、その瞬間の歯科治療です。しかし治療の回数が増えるにつれ、残念ながらこのように歯はどんどん弱体化していきます。
永久歯として最も早く生えてきた第一大臼歯はこのようなストーリーをたどりやすく、大人になってから他の歯よりも早いタイミングで抜歯に至るケースが非常に多いのです。
歯を失うことは大変残念ですが、時は戻せません。大事なのはここからです。再び同じ思いをしないように、歯ブラシの仕方や過去の食習慣、生活習慣を見直すことも必要かもしれません。
第一大臼歯が失われるとその後どのような治療が必要になるでしょう?最も多くの方はブリッジを選択して、失われた歯を補います。
咀嚼機能の改善と噛み合わせの安定のために必要な処置ですが、やむを得ず手前と奥の2本のエナメル質を削らなければなりません。
目的があっての治療ですが、エナメル質を削られた歯はその後「むし歯→再治療」を繰り返す傾向があります。
するとやがては神経がなくなり、歯根が割れて結果的に抜歯に至るお約束のストーリーです。歯ブラシのしにくさ、咬合力の分布の差やクラウンの構造的な違いで、手前の小臼歯ではなく第二大臼歯が失われるパターンが非常に多いです(後述)。
ブリッジを被せることで、結果的に第二大臼歯も失ってしまうという心配は無視できません。
図で示しましょう。歯を土台の形に削った状態で考えます。患者さんの上下噛み合わせの関係によって、土台の高さはおのずと決まります(↕ :青矢印 )。人によって個人差があるということです。土台の背丈が低いほどクラウンを維持させるには不利な形態となり、セメントの接着面積の不足も関係してブリッジは外れやすくなります。
土台の背丈が低いということは、ブリッジ自体の厚みも不足するということです(↕ :赤矢印)。つまり条件によっては、強度不足のブリッジが作られることになります。食事や歯軋りの負荷で変形しやすいブリッジは容易に外れてしまい、その都度再治療を余儀なくされるのです。
このように患者さん固有の条件によって、ブリッジの長期保存率は全く変わります。
再治療を少なくし自分の歯を守るための手段を考えると、インプラントは非常に有効な治療法です。
7番の高さは十分。仮に6番が抜歯になっても、⑦⑥⑤のブリッジを長持ちさせやすい。結果、7番の致命的なダメージも生じにくい
6番抜歯後の⑦⑥⑤ブリッジは、7番の高さが不足していることにより、変形しやすく外れやすい。将来7番を失いやすい環境となる。
インプラント治療を決心するタイミングは人それぞれですが、先にも記しました通り欠損歯数が少ないほど治療も単純で、費用対効果がもっとも高くなるでしょう。欠損が多くなると噛み合わせ治療も必要になるかもしれません。治療はより複雑になり、費用や時間もかさみます。
1本の歯の喪失は、将来他の歯も失うリスクを高めます。6番が失われた時点でインプラントを選択するということは、7番が救われることはもちろんですが、他の歯の喪失を避けることに直接つながります。
欠損修復に1本のインプラントを活用するだけで、生涯における歯科治療の苦労と出費を大幅に減らすことができるかもしれません。すでにブリッジを装着している方でも、今後土台にかかる負担を軽くするために欠損をインプラントに置き換えることはとても意義がございます。
一度インプラントをじっくりと検討してみてはいかがでしょうか。