インプラントを最終手段と考える方も多いのですが、インプラントを検討するのであれば、噛み合わせの修正が必要にならない少数歯欠損の時が最も安全です。
インプラントは現在の歯科医療において特殊な治療と考えるべきです。保険がきかないので費用もかかります。
一方で利点が大きいことも事実です。特に取り外しタイプの義歯をインプラントに換えたとき、もしくはインプラントで義歯を固定することで硬い物でもなんでも噛めるようになった経験のある方は、インプラントの恩恵を十分に感じておられるでしょう。
ではインプラントとは、使い心地の悪い義歯に悩んでいるご高齢の方のための治療なのでしょうか?
義歯の代わりとなるインプラントは使用本数は比較的多くなり、治療費は相当に高額になりがちです。おまけに治療の期間も長期に及ぶでしょう。経済的な余裕があったとしても、高齢になってからの大掛かりな歯科治療は体力的にはかなりしんどいはずです。
例えば30歳で1本の歯を失ったとします。保険医療を活用すれば、従来のやり方で欠損修復は可能です。しかし安価な治療によって、将来別の歯を失ってしまう悲劇も残念ながらあるのです。欠損がやがて次の欠損を生み、高齢になった頃には義歯のお世話になっているかもしれません。
今、1本のインプラントを活用することによって他の歯を抜かずに済む未来があるとしたら、患者さんにとってはその利益はとても大きいのではないでしょうか。義歯になるはずだった未来が、ほんのわずかな本数のインプラントを活用することでほぼほぼご自分の歯で食生活を楽しめる未来にスイッチできるかもしれません。
インプラント治療をするタイミングはいつが適切か?少し考えてみましょう。
歯が1本失われるだけで、噛み合わせの様子は激変します。欠損歯が多くなるにつれ、知らず知らず噛み合わせのバランスが崩れてしまっている患者さんを数多く拝見します。冒頭でも触れましたが、インプラント治療の目的は隙間を埋めることではなく、天然歯と同調させた健やかな噛み合わせを作り上げることです。ひいては残存歯を守ることにも直結します。
上記で欠損の状況を1~4の場面で分けました。インプラント治療の難易度にも準じます。仮に欠損歯が1本だけだった場合、それまでの噛み合わせに合わせてインプラント修復をすればいいだけなので治療はある意味簡単です。ところが部分入れ歯が必要になるほど欠損歯が多い場合は、噛み合わせや顎位(顎位のページ参照)が大幅にずれていることもあり、それを整えないことにはインプラント治療は成立しません。「せっかくインプラントを入れたけど物が噛めない」と嘆く方もいらっしゃいますが、欠損を補うためだけのインプラント治療は患者さんの満足に辿り着かない場合もあります。
骨のコンディションによっては、インプラントを埋める手術はインプラントの専門医に任せます。しかし顎位や噛み合わせに異常があった場合は、インプラントを噛み合わせに参加させる前に、噛み合わせを改善させることがインプラント治療を成功させる大きなポイントとなります。欠損歯が多いほど、インプラント治療だけでなく保険が適応されない複雑な噛み合わせ治療が必要になる可能性が高まります。
噛み合わせとインプラントは別の分野であり、別の診断が必要になることをよくご承知いただきたく思います。
インプラントを検討するのであれば、噛み合わせの修正が必要にならない少数歯欠損の時が最も安全です。費用対効果が最大になるでしょう。