噛み合わせを大切に
次の欠損歯を生まないために
インプラント治療とは、単に「欠損を補う」だけの治療ではありません。インプラントと周辺の天然歯を同調させることにより天然の歯を長持ちさせること、欠損歯をこれ以上増やさないこと、それが最大の目的なのです。そのために重要なことは噛み合わせの安定です。高坂デンタルオフィスでは、全体のかみ合わせに注目しながらインプラント治療を行っております。
詰め物や被せ物など、修復物を装着する場所はあくまでも「体の外」です。周辺の細胞に炎症を起こさせないように精密な仕事が求められますが、インプラントは、チタン製の人工歯根を生きた骨細胞の中に埋め込む治療なので、もしも何か問題が生じた場合は周辺の骨が失われていく可能性があり、何かあったときのリカバーは非常に困難です。インプラントを生体と調和させるために、噛み合わせも含めシビアに評価しながら処置を進めます。
いうまでもないことですが、歯は二度と再生しない臓器です。むし歯治療とは人工物に置き換えるにすぎないので、生体にとっては本当の意味での治癒とはいえません。ゆえに歯科医療とは、人工物と生体組織との調和を追求しなければなりません。インプラントはその最たる治療なので、患者さんによっては噛み合わせを整えるというお膳立てがとても重要になります。
インプラント治療 1
インプラント治療
インプラント治療のタイミング
インプラントは入れ歯の次の治療法?
インプラントは現在の歯科医療において特殊な治療と考えるべきです。保険がきかないので費用もかかります。一方で利点が大きいことも事実です。特に取り外しタイプの義歯をインプラントに換えたとき、もしくはインプラントで義歯を固定することで硬い物でもなんでも噛めるようになった経験のある方は、インプラントの恩恵を十分に感じておられるでしょう。
ではインプラントとは、使い心地の悪い義歯に悩んでいるご高齢の方のための治療なのでしょうか?
義歯の代わりとなるインプラントは使用本数は比較的多くなり、治療費は相当に高額になりがちです。おまけに治療の期間も長期に及ぶでしょう。経済的な余裕があったとしても、高齢になってからの大掛かりな歯科治療は体力的にはかなりしんどいはずです。
例えば30歳で1本の歯を失ったとします。保険医療を活用すれば、従来のやり方で欠損修復は可能です。しかし安価な治療によって、将来別の歯を失ってしまう悲劇も残念ながらあるのです。欠損がやがて次の欠損を生み、高齢になった頃には義歯のお世話になっているかもしれません。
今、1本のインプラントを活用することによって他の歯を抜かずに済む未来があるとしたら、患者さんにとってはその利益はとても大きいのではないでしょうか。義歯になるはずだった未来が、ほんのわずかな本数のインプラントを活用することでほぼほぼご自分の歯で食生活を楽しめる未来にスイッチできるかもしれません。
インプラント治療をするタイミングはいつが適切か?少し考えてみましょう。
インプラントを検討するタイミングは、
1
2
3
4
1本の永久歯を失ってからすぐ
まだブリッジで対応できるけど、欠損部位が複数になったとき
部分義歯が必要になったとき
総義歯を安定させたいと思ったとき
歯が1本失われるだけで、噛み合わせの様子は激変します。欠損歯が多くなるにつれ、知らず知らず噛み合わせのバランスが崩れてしまっている患者さんを数多く拝見します。冒頭でも触れましたが、インプラント治療の目的は隙間を埋めることではなく、天然歯と同調させた健やかな噛み合わせを作り上げることです。ひいては残存歯を守ることにも直結します。
上記で欠損の状況を1~4の場面で分けました。インプラント治療の難易度にも準じます。仮に欠損歯が1本だけだった場合、それまでの噛み合わせに合わせてインプラント修復をすればいいだけなので治療はある意味簡単です。ところが部分入れ歯が必要になるほど欠損歯が多い場合は、噛み合わせや顎位(顎位のページ参照)が大幅にずれていることもあり、それを整えないことにはインプラント治療は成立しません。「せっかくインプラントを入れたけど物が噛めない」と嘆く方もいらっしゃいますが、欠損を補うためだけのインプラント治療は患者さんの満足に辿り着かない場合もあります。
骨のコンディションによっては、インプラントを埋める手術はインプラントの専門医に任せます。しかし顎位や噛み合わせに異常があった場合は、インプラントを噛み合わせに参加させる前に、噛み合わせを改善させることがインプラント治療を成功させる大きなポイントとなります。欠損歯が多いほど、インプラント治療だけでなく保険が適応されない複雑な噛み合わせ治療が必要になる可能性が高まります。
噛み合わせとインプラントは別の分野であり、別の診断が必要になることをよくご承知いただきたく思います。
インプラントを検討するのであれば、噛み合わせの修正が必要にならない少数歯欠損の時が最も安全です。費用対効果が最大になるでしょう。
失いやすい大臼歯
親知らずを除いた28本の永久歯で前歯よりも臼歯の方が失われる可能性は高く、中でも一番奥にある第一、第二大臼歯の抜歯が統計的に最も多いです。理由は簡単に推察できます。
歯ブラシが届かず虫歯になりやすい
咬合力の影響で歯根が割れやすい
およそ6歳になった頃、一番初めに生えてくる臼歯が第一大臼歯です。歯ブラシもままならない子供にとって一番奥に生えてきた第一大臼歯は、細菌の餌食にどうしてもなりやすい。尊いエナメル質がむし歯と再治療で失われ、その後の人生で最もダメージが大きくなりやすい歯といえます。12歳前後で2番目の大臼歯、第二大臼歯が生えてきますが、この歯も細菌と咬合力の負の影響を受けやすい歯であることに違いはありません。
むし歯になった第一大臼歯の運命は?
詰め物や被せ物、それを接着するセメントなど、すべての人工物にとってお口の中ほど劣悪な環境はありません。細菌の存在はもちろん、唾液という水分、咀嚼や歯ぎしりなどの破壊的な力に常にさらされているのです。文句のつけようのない治療だったとしても、修復物は時と共に劣化します。やがては再治療が必要な状況になるでしょう。
子供の頃、第一大臼歯の初めての治療が簡単な詰め物で済んだとしても、もしもその後も治療が繰り返されたらどうなるか…
残念なポイントを補足すると、
1
歯をかぶせることによりエナメル質が失われる → 歯の強度が激減する → 歯が壊れやすくなる
2
神経をとらなければならなくなる → バクテリアに対する抵抗力がゼロになる → むし歯にやりやすく歯根が割れやすくなる
必要であるからこそ、その瞬間の歯科治療です。しかし治療の回数が増えるにつれ、残念ながらこのように歯はどんどん弱体化していきます。
永久歯として最も早く生えてきた第一大臼歯はこのようなストーリーをたどりやすく、大人になってから他の歯よりも早いタイミングで抜歯に至るケースが非常に多いのです。
失った後、次の一手は?
歯を失うことは大変残念ですが、時は戻せません。大事なのはここからです。再び同じ思いをしないように、歯ブラシの仕方や過去の食習慣、生活習慣を見直すことも必要かもしれません。
第一大臼歯が失われるとその後どのような治療が必要になるでしょう?最も多くの方はブリッジを選択して、失われた歯を補います。
咀嚼機能の改善と噛み合わせの安定のために必要な処置ですが、やむを得ず手前と奥の2本のエナメル質を削らなければなりません。
目的があっての治療ですが、エナメル質を削られた歯はその後「むし歯→再治療」を繰り返す傾向があります。
するとやがては神経がなくなり、歯根が割れて結果的に抜歯に至るお約束のストーリーです。歯ブラシのしにくさ、咬合力の分布の差やクラウンの構造的な違いで、手前の小臼歯ではなく第二大臼歯失われるパターンが非常に多いです(後述)。
ブリッジを被せることで、結果的に第二大臼歯も失ってしまうという心配は無視できません。
長持ちするブリッジとしないブリッジ
ここまで述べるとブリッジは良くない治療かと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。臨床で一般的な治療法となったのは昭和30年ごろから、むしろインプラントよりもオーソドックスで安心な治療であるという側面もあります。ですが一方で、初めからブリッジが適応外であるケースもあるのです。
図で示しましょう。歯を土台の形に削った状態で考えます。患者さんの上下噛み合わせの関係によって、土台の高さはおのずと決まります( ↕ :青矢印)。人によって個人差があるということです。土台の背丈が低いほどクラウンを維持させるには不利な形態となり、セメントの接着面積の不足も関係してブリッジは外れやすくなります。
土台の背丈が低いということは、ブリッジ自体の厚みも不足するということです( ↕ :赤矢印)。つまり条件によっては、強度不足のブリッジが作られることになります。食事や歯軋りの負荷で変形しやすいブリッジは容易に外れてしまい、その都度再治療を余儀なくされるのです。
このように患者さん固有の条件によって、ブリッジの長期保存率は全く変わります。
再治療を少なくし自分の歯を守るための手段を考えると、インプラントは非常に有効な治療法です。
7番の高さは十分。仮に6番が抜歯になっても、⑦⑥⑤のブリッジを長持ちさせやすい。結果、7番の致命的なダメージも生じにくい
7番の高さが不足しているケース。
6番抜歯後の⑦⑥⑤ブリッジは、7番の高さが不足していることにより、変形しやすく外れやすい。将来7番を失いやすい環境となる。
ご自分の歯を守るためのインプラント
インプラント治療を決心するタイミングは人それぞれですが、先にも記しました通り欠損歯数が少ないほど治療も単純で、費用対効果がもっとも高くなるでしょう。欠損が多くなると噛み合わせ治療も必要になるかもしれません。治療はより複雑になり、費用や時間もかさみます。
1本の歯の喪失は、将来他の歯も失うリスクを高めます。6番が失われた時点でインプラントを選択するということは、7番が救われることはもちろんですが、他の歯の喪失を避けることに直接つながります。
欠損修復に1本のインプラントを活用するだけで、生涯における歯科治療の苦労と出費を大幅に減らすことができるかもしれません。すでにブリッジを装着している方でも、今後土台にかかる負担を軽くするために欠損をインプラントに置き換えることはとても意義がございます。
すでに抜歯を決断された方
欠損部をどう修復すればいいかお悩みの方
すでにブリッジを装着している方
過去にブリッジのトラブルを経験している方
一度インプラントをじっくりと検討してみてはいかがでしょうか。